2018年10月22日 (月)

9月号の歌

「ポケモンジムになりました」という張紙をイオンの壁に見る春の昼

長生きをリスクと告げるCMに振り向く とおい母を思って

人間にだけあるという長い日々 老後をなだらかに生きてゆく

淡々と少女ふたりの髪ゆれて五月のバスを待つ木下闇

止まるときバスは左に傾いてひとりの肩をさびしくさせる

ためらいもなく草原を踏む素足こどもがこどもを追いかけてゆく

押しやればぴんと張りつめ何もかも拒むかたちに傘はふくらむ

雨音にかくれた街のしずけさが湿った靴の裏にしみこむ

(淡々=あわあわ)

(塔2018年9月号掲載歌・池本一郎さん選)

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7月号7首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(山上秋恵さん)
山上さんには以前も評をいただいたのですが、明るさを掬って読んでくださることをうれしく思います。

2018年9月21日 (金)

8月号の歌

とりあえず信じてみようと思いつつ羽田の空に身体を浮かす

ひややかな壁にふれれば飛行機のふるえは私の身体をめぐる

ピーチラインより桃街道と呼びたいな果実の重みてのひらにして

魂を引きよせるため振る袖のちぎれるほどの恋をしましょう

くちびるのさかいめそっとさぐりつつ助手席に塗るリップクリーム

車窓低く灯りは縦にまたたいて川を渡っていると気づいた

(塔2018年8月号掲載歌・江戸雪さん選)

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6月号1首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(横田竜巳さん)
(名前は誤植のままなのですが、今回は訂正依頼を出しませんでした)

2018年8月24日 (金)

7月号の歌

初陣のあかるさだろうたんぽぽの綿毛名のみの春に飛びたつ

言いさしの言葉に栞するように春の暦に書きこむ名前

きっぱりと別れの意気をとじこめた胸まっすぐに歩いていこう

何度でも二度寝するってそれはもう二度寝じゃないよ春が来ている

浄土へと通じるという満開の桜の下に素足で降りる

窓際の晴れの気配をつめこんでガラス壜になる四月の身体

晴れてくるだけでうれしい雲を割るひかりが春の胸まで届く

(塔2018年7月号掲載歌・三井修さん選)

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5月号3首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(山上秋恵さん)

2018年7月24日 (火)

6月号の歌

名を呼んでほしいと言えば驚いて私を見る遠いあなたは

カーテンの模様がひかりに浮きあがるやわらかく朝の圧かけられて

雲ひとつない空はただ寂しくて碧の深みに沈んでしまう

再婚の知らせを祝す早春のカフェにグラスの影をかさねて

てのひらのようにひらめく猫の耳わたしはわたしを信じていよう

カーディガンふわりとはおる三月のひかりと影を芝生に踏んで

(塔2018年6月号掲載歌・小林幸子さん選)

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名前に誤植がありました。
糸偏とさんずい、間違えられがちなのですが、結社誌では初めてのこと。

2018年7月 9日 (月)

5月号の歌

パレットにのばす絵具のぎりぎりの性善説を信じていたい

苦しげに息するように銅の月はひとときひかりを拒む

コーヒーがあっという間に冷めてゆく寒ささびしさ小夜のきさらぎ

ひかえめな夕焼けのようにはにかんで笑うあなたの母になりたい

待つことの寂しさを言う日盛りに出てゆくときのまなざしをして

枯枝にふくらむ冬芽あかるさをあっけらかんと呼ぶ朝の窓

名を知れば早く呼びたくなるこころ冬のアベリア夏のルクリア

(銅=あかがね)

(塔2018年5月号掲載歌・三井修さん選)

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2018年5月31日 (木)

4月号の歌

なにもかも「いい日」に変わる霜月の一日、八日、十日、二十八日

『九十歳。何がめでたい』の快哉をひとり暮らしの母より借りる

ざんねんないきものと呼ぶ人間の驕りをわらうグラスフロッグ

リアルではひと月会わぬ子供らを今日も見かけるどうぶつの森

はじめての夫の雑煮は遜色のない味がして年あらたまる

雪でした花びらでした降るものはいつもつかのますきまを埋める

(一日~姿勢、八日~歯並び、十日~頭皮、二十八日~ニーハイ、のルビ)

(塔2018年4月号掲載歌・前田康子さん選)

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2018年5月 1日 (火)

3月号の歌

秋空の眩しさを言う澄みきった水晶体をとうになくして

錘にも踏切版にもなる人が胸のどこかで私をただす

スマホ持つ手はことごとく内向きでみんな猫背になって夕照

糸に冬と書いて終わりにする恋のまだ切れぬ糸かわらない冬

北国を生き抜く猫のたくましさ雪をかきわけぐいぐい歩く

南天の赤くなる頃大雪はだいじな人を心に灯す

新宿にひとりで暮らす子の部屋の片隅にいつもチェロがあること

(塔2018年3月号掲載歌・真中朋久さん選)

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1月号6首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(鮫島浩子さん)

2018年4月 6日 (金)

2月号の歌

心には深い海があるという声が遠く聞こえる瞑想のレッスン

コンビニが消えて生まれるこの町にダーウィニズムのごとき風吹く

尖りある酸味の赤がくちびるを濡らす夜です月は見えない

ひとりだとふと思う時ときしんしんと深くなりゆく秋の蒼天

泣くことは恥ずかしいと言う六歳がふわりと母のスカートに添う

物語の終わりのように零時には床につくから明日をください

朝に流すポットのお湯のあたたかさ今日は誰にも会わなくていい

(塔2018年2月号掲載歌・江戸雪さん選)

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2018年3月20日 (火)

1月号の歌

踊らせてほしい日もある踊りたい日もある風が秋に変わった

かすかなる焦燥感が日々にありちりりと痛む足裏である

光るにはまだ至らない原石の時に未来を超えるまたたき

ももいろの耳かたむけて母猫は時折容赦なき眼を向ける

めざめては身巡りの水を縦にする樹に学びたいとふと思いつつ

空き部屋を子の名のままに呼ぶことのためらいもなく五年過ぎゆく

(塔2018年1月号掲載歌・永田和宏さん選)

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2018年2月11日 (日)

12月号の歌

明け方の空にオリオンあらわれて秋のそびらにふれるまなざし

早朝のねむりをさますアラートがテレビ画面を黒くくり抜く

旅をする獣は手足が大きくてやさしい眼をしているはずだった

サバンナに別れの風が吹くときに帽子と鞄を君にあずける

微量でも検出されたよろこびをパラフィン紙として震わせてみる

分かちあうとは言わないでシェアと言うドライフルーツを選るまなざしで

(塔2017年12月号掲載歌・永田淳さん選)

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