2017年9月 6日 (水)

7月号の歌

鑑定士になって桜の街を行く あれは二分咲き、これは五分咲き

花曇り、鳥雲に入る、鰊空 春はやさしく紗をかけてゆく

薄目あけ確かめている早朝の時計の針がやわらかくなる

いつの世のどこで会ったのかと思うかすかに記憶をくすぐる人と

首にある七つの骨をゆるませてしばしまどろむヒトとキリンは

てのひらがただ穏やかで泣けてくる何てことなき春の日なのに

(塔2017年7月号掲載歌・栗木京子さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

2017年8月 8日 (火)

6月号の歌

養生中の札をかけられ細き枝かさかさと鳴る冬のひだまり

ホットヨガのレッスンを待つ十五分ふつふつと熱こもらせる髪

読みかけの歌集におとす栞紐うたの背筋にゆったりと添う

巣立ちゆく子供ふたりを見届けて幸福の木は葉をみな落とす

あかねさすティーダさよなら十年経て後部座席に子のいない春

(十年=ととせ)

(塔2017年6月号掲載歌・三井修さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

4首目の幸福の木、ほとんど枯れ木状態になっていたものが、今はまた葉を繁らせていますclover
金沢の厳しい冬もベランダで越した強い子で、もう30年の付き合い…植物の生命力はすごいなぁ、と思います。

2017年7月 4日 (火)

5月号の歌

ころんだら落とすいのちと思いつつ冬の横断歩道を渡る

不本意なことは日々ある垂れこめた雲の上には満月がある

マグカップで指先あたためつつ握りそっとすべらす猫背のマウス

名の上の故の字さびしむ私のときは知らずに過ごしてほしい

弦楽のうねりがむずかる子のようでヨガのポーズがゆらいでしまう

廃屋の壁めきめきと新しい色を見せつつ壊されてゆく

(塔2017年5月号掲載歌・江戸雪さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

3月号7首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(千葉なおみさん)

2017年6月 3日 (土)

4月号の歌

「くつしたちゃん」と呼ばれる猫の靴下に長いものあり短いものあり

チューニングの音のうねりは一点に絞られたのち空気に変わる

チェロの弦は指にあかるく弾かれて冬の心をのびやかにする

千年をもつといわれる羊皮紙のひつじの記憶たどりゆきたい

綺麗事ときれいなことは似てるけどインクの染みる加減が違う

エラー音に止まるルンバを背中から抱えて戻す 亀のようだな

『虚実妖怪百物語』を読みながら長くて深いお辞儀見ている

(弾かれて=はじかれて)
(虚実=うそまこと)

(塔2017年4月号掲載歌・永田淳さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

2月号4首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(清水弘子さん)

2017年5月12日 (金)

3月号の歌

何度でも窓をひらいてたしかめる東の空の虹の気配を

惜別のこころで見ればなにもかも夕陽の色にかわる教室

金色の陽をまとい来よ枯野より子はやすやすと老いてゆくから

波頭ただまぶしくてその夏に別れた人が美しくなる

君は少し泣いた?と問われ立ち止まるその旋律を胸にひろげて

眠たくて祈りのように傾けた首はすべり台のさびしさだ

霜月の初雪は午後も降りやまずしんと冷たい夕刊届く

(塔2017年3月号掲載歌・前田康子さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

2017年4月19日 (水)

2月号の歌

宍道湖に真雁は群れる行く秋の落穂、二番穂ついばみながら

笑顔には魔除けの意味があるという埴輪の中のひそやかな闇

成長が神話の時代オリオンの振りかざす腕の先の混沌

パンフレット五十冊分の時は行く君とシネマの闇をかさねて

筆跡のとがりに低い声を汲む君と五年の交換日記

真夜中の雨に気づいて耳じゅうが雨音になる眠りにとける

(塔2017年2月号掲載歌・山下洋さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

12月号2首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(吉岡昌俊さん)

2017年3月 2日 (木)

1月号の歌

函館の町にカラスとカモメ飛びさびしい色と気づいてしまう

長万部、洞爺、室蘭、地名のみ知る駅が行く車窓のむこう

手裏剣と思って避けたひとことが遠ざかるほど鮮やかになる

銀木犀をヒトのあなたと見にゆけば百三十年の樹齢は奇跡

ささやかにはしゃいだ後のはにかみのように漂う花の香がある

どちらかがこの世に残されることのたしかさを思う火を緩めつつ

(塔2017年1月号掲載歌・小林幸子さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

1首目2首目は昨年9月に北海道に行ったときの歌です。
旅先で短歌や俳句をつくろう!といつも思うのに全然できません。
(そう思っていたこと自体をすぐに忘れる)
たぶん吟行が苦手なタイプなんだと思います。

11月号1首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(永久保英敏さん)

2017年1月31日 (火)

12月号の歌

深夜から突然朝が来るようだタイムラインをたどってゆけば

古き香の消えて私のものとなる本に記憶のまなざしがある

明るい未来が「アカルイミライ」と聞こえくる万歳に沸く画面の中の

夏だけに流れる川があることを告げてふしぎを君と分けあう

小走りの速さで迫ってくる水が小さな山羊をころがしてゆく

子の部屋に既に子はなく「邪気封印」のシールみどりにつやめいている

風を打つ背面跳びのすがしさで九月わたしの秋がはじまる

(塔2016年12月号掲載歌・真中朋久さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

「邪気封印」はエアリスのリミット技ですね。

2016年12月29日 (木)

11月号の歌

はつなつの首賭け銀杏ゆるぎない声が若葉となってざわめく

東京のメトロの下にメトロあり爪先いつかマグマにふれる

パラソルのようなあなただ夏の陽と雨をあかるくかわすてのひら

空あおぎUFOを呼ぶまなざしで池のまわりに休む人たち

昼の顔スプーンの背にうつしつつ午後にやるべき仕事を思う

(塔2016年11月号掲載歌・三井修さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

9月号7首目の歌を新樹集評で取り上げていただきました。(小山美保子さん)

2016年11月28日 (月)

10月号の歌

はつなつのあさい眠りの遠浅にねころぶような五時のあかるみ

ドライヤーを止めた瞬間世界からあらゆる音が消えて 生まれた

空の色と同じになって紫陽花は今日の景色にとけこんでゆく

気にしないあなたは強い五月雨の光の粒も味方につけて

ひっそりと芝生に尾骨しずませて七月を呼ぶ風に吹かれる

できるならメモしておいてその朝にほろびる星の名を知ったこと

まだ白い肩ふれあって梅雨明けの七月きみの体温を知る

(塔2016年10月号掲載歌・江戸雪さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

五首目を百葉集(吉川宏志さん選)に採っていただきました。

より以前の記事一覧