2019年4月 2日 (火)

2月号の歌(2019)

緑屋と自らを呼ぶ造園家百年のちの木々を見すえて

荒れ地には十万本の木を植えてその後は人の手を加えない森

ダンゴムシにも日本古来のものがあり神宮の森に生きながらえる

逃げてゆく獣の脚はさびしくて濡れた翼をたたむ鳥たち

十月の夜は冷えるね十三夜の月はまぶたの形にひかる

暗がりでひらく瞳のみずうみにあなたが石を投げて それから

のこされた車内に静寂おしよせて耳の底方をめぐる血の音

(静寂=しじま、底方=そこい)

(塔2019年2月号掲載歌・前田康子さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

 

2019年2月28日 (木)

1月号の歌(2019)

秋晴れの洗濯物の幸を言う母がいちばん満ちたりている

着ぐるみのなかの哀しみ眠り方を忘れた夜のこどもがひとり

ひとり死ぬことを孤独死と呼ぶことの微かな違和を言葉にできず

秋分の日の夕暮のバスに揺れるほつれの目立つ日の丸の旗

失踪を蒸発と呼ぶ昭和にも人は瞬時に消えたりしない

ドアポストの夕刊抜けば玄関に金木犀の香が入りくる

さきさきと菜を切るとき薄命の咲姉ちゃんが思い出になる

(塔2019年1月号掲載歌・真中朋久さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

6首目の歌を百葉集に選んでいただきました。

2019年1月21日 (月)

12月号の歌

八月は肩で息する物陰に土偶のような生を潜ませ

思い出しながら頭の中に書く崖という字が景色に変わる

天気予報は気象情報と名を変えて徐々に厚みを増すこの世界

不変かもしれず普遍かもしれず君の言葉が身体をめぐる

じんわりと頭が痛む台風は南の海に生まれたばかり

百日紅の花の尖りのももいろはほとんど夢でできていました

(塔2018年12月号掲載歌・栗木京子さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

10月号6首目の歌を作品合評で取り上げていただきました。(紀水章生さん・紫野春さん)

2018年12月28日 (金)

11月号の歌

はねる水ふれる食器に開くドア病床に聞く音は明るい

聞き慣れぬ「命にかかわる」という言葉この夏の気象情報にあり

水菓子のひかりに口をふさがれて永遠の秘密となる夏の些事

ここではないいつかどこかの物語それを信じて生きていこうか

ワンピースは夏の正装顔上げて歩く平均台を行くように

よろこびをモザイクにして敷石にするから君は渡って 笑って

(塔2018年11月号掲載歌・三井修さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

9月号6首目、7首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(出奈津子さん)

2018年11月27日 (火)

10月号の歌

榎の葉しか食べられずオオムラサキ細き蛹に変わる葉の裏

こぼれおちるように飛びたつ虫たちの地球は青いみずうみだろう

四匹が鍋に頭をつっこんで猫の昼餉は夏草の上

天の川みたいに啜るところてんぴちぴちはねて夏がはじまる

モノローグがダイアローグになるまでの遥かな歩み 君と出会った

問う人のまなざしのただまぶしくて開いた夏の傘にかくれる

(塔2018年10月号掲載歌・小林幸子さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

2018年10月22日 (月)

9月号の歌

「ポケモンジムになりました」という張紙をイオンの壁に見る春の昼

長生きをリスクと告げるCMに振り向く とおい母を思って

人間にだけあるという長い日々 老後をなだらかに生きてゆく

淡々と少女ふたりの髪ゆれて五月のバスを待つ木下闇

止まるときバスは左に傾いてひとりの肩をさびしくさせる

ためらいもなく草原を踏む素足こどもがこどもを追いかけてゆく

押しやればぴんと張りつめ何もかも拒むかたちに傘はふくらむ

雨音にかくれた街のしずけさが湿った靴の裏にしみこむ

(淡々=あわあわ)

(塔2018年9月号掲載歌・池本一郎さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

7月号7首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(山上秋恵さん)
山上さんには以前も評をいただいたのですが、明るさを掬って読んでくださることをうれしく思います。

2018年9月21日 (金)

8月号の歌

とりあえず信じてみようと思いつつ羽田の空に身体を浮かす

ひややかな壁にふれれば飛行機のふるえは私の身体をめぐる

ピーチラインより桃街道と呼びたいな果実の重みてのひらにして

魂を引きよせるため振る袖のちぎれるほどの恋をしましょう

くちびるのさかいめそっとさぐりつつ助手席に塗るリップクリーム

車窓低く灯りは縦にまたたいて川を渡っていると気づいた

(塔2018年8月号掲載歌・江戸雪さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

6月号1首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(横田竜巳さん)
(名前は誤植のままなのですが、今回は訂正依頼を出しませんでした)

2018年8月24日 (金)

7月号の歌

初陣のあかるさだろうたんぽぽの綿毛名のみの春に飛びたつ

言いさしの言葉に栞するように春の暦に書きこむ名前

きっぱりと別れの意気をとじこめた胸まっすぐに歩いていこう

何度でも二度寝するってそれはもう二度寝じゃないよ春が来ている

浄土へと通じるという満開の桜の下に素足で降りる

窓際の晴れの気配をつめこんでガラス壜になる四月の身体

晴れてくるだけでうれしい雲を割るひかりが春の胸まで届く

(塔2018年7月号掲載歌・三井修さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

5月号3首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(山上秋恵さん)

2018年7月24日 (火)

6月号の歌

名を呼んでほしいと言えば驚いて私を見る遠いあなたは

カーテンの模様がひかりに浮きあがるやわらかく朝の圧かけられて

雲ひとつない空はただ寂しくて碧の深みに沈んでしまう

再婚の知らせを祝す早春のカフェにグラスの影をかさねて

てのひらのようにひらめく猫の耳わたしはわたしを信じていよう

カーディガンふわりとはおる三月のひかりと影を芝生に踏んで

(塔2018年6月号掲載歌・小林幸子さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

名前に誤植がありました。
糸偏とさんずい、間違えられがちなのですが、結社誌では初めてのこと。

2018年7月 9日 (月)

5月号の歌

パレットにのばす絵具のぎりぎりの性善説を信じていたい

苦しげに息するように銅の月はひとときひかりを拒む

コーヒーがあっという間に冷めてゆく寒ささびしさ小夜のきさらぎ

ひかえめな夕焼けのようにはにかんで笑うあなたの母になりたい

待つことの寂しさを言う日盛りに出てゆくときのまなざしをして

枯枝にふくらむ冬芽あかるさをあっけらかんと呼ぶ朝の窓

名を知れば早く呼びたくなるこころ冬のアベリア夏のルクリア

(銅=あかがね)

(塔2018年5月号掲載歌・三井修さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

より以前の記事一覧