2018年7月24日 (火)

6月号の歌

名を呼んでほしいと言えば驚いて私を見る遠いあなたは

カーテンの模様がひかりに浮きあがるやわらかく朝の圧かけられて

雲ひとつない空はただ寂しくて碧の深みに沈んでしまう

再婚の知らせを祝す早春のカフェにグラスの影をかさねて

てのひらのようにひらめく猫の耳わたしはわたしを信じていよう

カーディガンふわりとはおる三月のひかりと影を芝生に踏んで

(塔2018年6月号掲載歌・小林幸子さん選)

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名前に誤植がありました。
糸偏とさんずい、間違えられがちなのですが、結社誌では初めてのこと。

2018年7月 9日 (月)

5月号の歌

パレットにのばす絵具のぎりぎりの性善説を信じていたい

苦しげに息するように銅の月はひとときひかりを拒む

コーヒーがあっという間に冷めてゆく寒ささびしさ小夜のきさらぎ

ひかえめな夕焼けのようにはにかんで笑うあなたの母になりたい

待つことの寂しさを言う日盛りに出てゆくときのまなざしをして

枯枝にふくらむ冬芽あかるさをあっけらかんと呼ぶ朝の窓

名を知れば早く呼びたくなるこころ冬のアベリア夏のルクリア

(銅=あかがね)

(塔2018年5月号掲載歌・三井修さん選)

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2018年5月31日 (木)

4月号の歌

なにもかも「いい日」に変わる霜月の一日、八日、十日、二十八日

『九十歳。何がめでたい』の快哉をひとり暮らしの母より借りる

ざんねんないきものと呼ぶ人間の驕りをわらうグラスフロッグ

リアルではひと月会わぬ子供らを今日も見かけるどうぶつの森

はじめての夫の雑煮は遜色のない味がして年あらたまる

雪でした花びらでした降るものはいつもつかのますきまを埋める

(一日~姿勢、八日~歯並び、十日~頭皮、二十八日~ニーハイ、のルビ)

(塔2018年4月号掲載歌・前田康子さん選)

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2018年5月 1日 (火)

3月号の歌

秋空の眩しさを言う澄みきった水晶体をとうになくして

錘にも踏切版にもなる人が胸のどこかで私をただす

スマホ持つ手はことごとく内向きでみんな猫背になって夕照

糸に冬と書いて終わりにする恋のまだ切れぬ糸かわらない冬

北国を生き抜く猫のたくましさ雪をかきわけぐいぐい歩く

南天の赤くなる頃大雪はだいじな人を心に灯す

新宿にひとりで暮らす子の部屋の片隅にいつもチェロがあること

(塔2018年3月号掲載歌・真中朋久さん選)

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1月号6首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(鮫島浩子さん)

2018年4月 6日 (金)

2月号の歌

心には深い海があるという声が遠く聞こえる瞑想のレッスン

コンビニが消えて生まれるこの町にダーウィニズムのごとき風吹く

尖りある酸味の赤がくちびるを濡らす夜です月は見えない

ひとりだとふと思う時ときしんしんと深くなりゆく秋の蒼天

泣くことは恥ずかしいと言う六歳がふわりと母のスカートに添う

物語の終わりのように零時には床につくから明日をください

朝に流すポットのお湯のあたたかさ今日は誰にも会わなくていい

(塔2018年2月号掲載歌・江戸雪さん選)

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2018年3月20日 (火)

1月号の歌

踊らせてほしい日もある踊りたい日もある風が秋に変わった

かすかなる焦燥感が日々にありちりりと痛む足裏である

光るにはまだ至らない原石の時に未来を超えるまたたき

ももいろの耳かたむけて母猫は時折容赦なき眼を向ける

めざめては身巡りの水を縦にする樹に学びたいとふと思いつつ

空き部屋を子の名のままに呼ぶことのためらいもなく五年過ぎゆく

(塔2018年1月号掲載歌・永田和宏さん選)

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2018年2月11日 (日)

12月号の歌

明け方の空にオリオンあらわれて秋のそびらにふれるまなざし

早朝のねむりをさますアラートがテレビ画面を黒くくり抜く

旅をする獣は手足が大きくてやさしい眼をしているはずだった

サバンナに別れの風が吹くときに帽子と鞄を君にあずける

微量でも検出されたよろこびをパラフィン紙として震わせてみる

分かちあうとは言わないでシェアと言うドライフルーツを選るまなざしで

(塔2017年12月号掲載歌・永田淳さん選)

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2018年1月13日 (土)

11月号の歌

せみしぐれ小暗い森に響くほどひんやりとする夏の身体は

指二本でひろげる君の表情が笑顔とわかる向日葵畑

旅に出た君がふらりと寄りそうで覗いてみたい猫の集会

熱あてて熱こもらせる夏の髪ゆびでといても縺れるばかり

突き上げた指揮者のてのひらの中に最後の音が吸われて消える

会計学を学んだ日々は遠くなり笊目のあらい家計簿つける

三等星までと言わずに見せてほしい身体が浮かぶほどの夜空を

(塔2017年11月号掲載歌・小林幸子さん選)

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9月号5首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(沼尻つた子さん)

2017年12月 8日 (金)

10月号の歌

ゆびさきにむせるみどりの濃きにおい初夏のトマトの茎にふれれば

朝八時アメリカ国歌と君が代がつづけて流れくる基地の町

一日分の野菜のカレーを食べながらまだ終わらない今日のいちにち

霜月に生まれたことの寂しさでひかれあったのだとしても恋

検索窓に「会」と入れれば「会社辞めたい」の言葉が二番目に出る

炭酸のはじける方へ呼ばれたい夏には夏の名で呼ばれたい

言い分と言い訳の間のかすかなるゆらぎ明日は晴れるでしょうか

(塔2017年10月号掲載歌・新樹集・吉川宏志さん選)
(作品2・前田康子さん選)

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久しぶりに新樹集に載せていただきました。

2首目。長く暮らしているわりには最近になって気づいたのでした。
ベランダで洗濯物を干していたりするとよく分かります。

8月号2首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(斎藤弘子さん)

2017年11月 2日 (木)

9月号の歌

春に咲き春に散る花はらはらと君の背中を見送る四月

カレンダーどおりに生きる人たちが五月の谷間を歩く靴音

霜柱のような衣がよいと言う天ぷら職人の指しなやかに

橅、桜、オリーブならぶ木べらからやがてソースの香が立ちあがる

そこで(笑)うなよと思う夜こころはまっすぐ飛ばしてほしい

炎天に小さき獣の列となりスラヴ叙事詩を人は見にゆく

ひとりだと思わなければひとりではなかったんだと気づく水無月

(塔2017年9月号掲載歌・山下洋さん選)

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7月号5首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(近藤真啓さん)

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