2020年3月 7日 (土)

1月号の歌(2020)

ああ泣いてしまうと思い目が覚めるかなしみは靄の向こうに残る

秋雨と秋雨の間のしずやかなひかりはみちる楡の老木

校庭の隅にみっしり子供らはしゃがんで秋の木の葉を拾う

日の差さぬ窓から順に埋まりゆきバスのバランス崩されてゆく

待っているのは天使だろうかホーム下に人はスマホのカメラを向けて

いつか解くために重ねたてのひらを三十年の月日が浚う

(塔2020年1月号掲載歌・永田和宏さん選)

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11月号1首目の歌を作品合評で取り上げていただきました。(いわこしさん、山内頌子さん)

4首目の歌を歌会に出したとき「そんなにまっすぐ走るバスはないだろう」と言われたのだけれど、私が利用しているバスは南北に割とまっすぐ走るのです…。

2020年1月30日 (木)

12月号の歌(2019)

夕闇が私をしまう仕舞われて私は少しさびしくなれる

来年の春の花芽をつけている何の迷いもない夏の木々

不機嫌にのけぞる子供のやわらかさ夢の尻尾をつかみきれない

クルミッ子とビスカウトに迷う店先にしずかに流れくる赤い靴

顔だけを水面に出す水に浮く2パーセントの身体として

生きていれば、の言葉はとても重たくてうつむく頬が不意につめたい

(塔2019年12月号掲載歌・小林信也さん選)

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2020年1月14日 (火)

11月号の歌

旅先に少しあらわになる恋を着慣れたシャツに包んで歩く

水底のひかりが石とわかるまで息ほそく吐き潜りつづけた

もう時間がないんですよというように手首の時計をちらりと覗く

離岸流が心の海に潜みいてあの砂浜にたどりつけない

会いたくない人ならきっと君の名を呼ばないでしょう夏の桟橋

(包んで=くるんで)

(塔2019年11月号掲載歌・前田康子さん選)

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9月号5首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(澤井潤子さん)

2019年12月 7日 (土)

10月号の歌(2019)

たいていのことは忘れて生きてゆく昨日の雨もあの日の夢も

バスを待つ人はさびしいあてもなくさぐる砂金のささやかな色

何も買わず店を出るときありがとうと言われてどこかきずついている

なぞなぞを出すように軽く問いかけて最後は胸の深みにふれる

七月の立木のポーズが決まらない風にゆらめく柳のようで

利き足でしょ、と右足に言い軸足でしょ、と左足に言う心の中で

レッスンを終えて夜道を歩くとき少し背すじが伸びてるふたり

(塔2019年10月号掲載歌・小林信也さん選)

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8月号1首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(白井陽子さん)

2019年10月30日 (水)

9月号の歌(2019)

そっとしておいてほしいな暗渠には古代の魚が影を潜めて

幸せに踏み込めそうだまどろみの中で何度もピポットターン

荒海では決してパドルを止められぬカヤック波間に見え隠れして

潮流に逆らいながら渡りきる40kmの海の紺青

新鮮な魚のことをびやびやと言う男たち海に生まれて

水無月の三日月さやか靴下が芝に湿って帰れなくなる

(塔2019年9月号掲載歌・江戸雪さん選)

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7月号4首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(上杉憲一さん)

歌人リレー企画「つがの木」

しばらく前のことになるのですが、鈴木えてさんの運営する歌人リレー企画「つがの木」(ネット歌人編~第15回)で、やじこさんに私の歌を紹介していただきました。

https://sanbashi.hatenablog.com/entry/2019/08/07/195702

こんな丁寧な文章にしていただくのは初めてだったので、本当にうれしかったです。

やじこさん、どうもありがとうございました。

2019年10月 7日 (月)

8月号の歌(2019)

そよぐよりさやぐの方がやさしくて五月の風はみどりをまとう

袖とおす天然リネン見るものが天然色と呼ばれた日々よ

耳うちは清または濁くちびるがふとふれそうな距離のはざまに

雨に濡れ透けゆく山荷葉の花あらわになるのがこわくはないか

言葉にはできないことがほとんどだふたりで生きた日々を思えば

言いたいことはいつも半分しか言えず木香薔薇の黄色が好きだ

(塔2019年8月号掲載歌・小林幸子さん選)

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2019年9月 9日 (月)

うたつかい2016夏号(26号)~2018.9(31号)

2016年夏号(26号)

自由詠~千の傘

ひとしきり降る雨がある人知れず芽吹く草木をはぐくむために

雨あがり電車の中に忘れられみじかい旅をする千の傘

盗まれることはあっても忘れるという生き方をしてこなかった

配下という言葉をニュースに聞いている小さな傘を分けてあげたい

ひんやりとつながる傘と右腕の描くきれいなラインみずつき

テーマ詠~家具家電

くやしさというバネひとつずつ足して寝心地のいいベッドをつくる

2016年秋号(27号)

自由詠~偽憂う背に(回文短歌)

遠のきてのち来る兄の名は記し花野に歩く地の笛の音

水底の石 枯れ木と火 野は目覚め羽のひときれか思惟の去年、波

是か否か行こうよまさに桜、空、草にさまよう恋叶い風

相聞の残る世 美の詩 偽憂う背にしのびよるこの「ノン」も嘘

快活のタウン散策恋ひと日 異国燦々歌の使いか

テーマ詠~オノマトペ

おるどびす、しるる、でぼんと流されて捕食されゆく小さないのち

2017年春号(28号)

自由詠~街の風景

スカイツリーのない東京を駈けてゆく七つの君とセーラームーン

てんてんと広場を跳ねるこどもたちフレンチナッツステッチになる

明日の天気を知れば行けない場所がある蛮勇なんて死語かもしれない

雨の街を見おろせば傘の色みちて寂しくないとおしえてくれる

ほんとうにいいんですかと夜が問う街のあかりの途切れたあたり

テーマ詠~お店

一礼ののちに売場を下がる人の折り目正しい気配はのこる

2017年秋号(29号)

自由詠~耳に砂

うぶごえのひびく窓辺のあかるさにみな余命持ち子は生まれくる

肩に眠るおさなごの夢の小さき庭だれも知らないまま消えてゆく

ノストラダムスの予言の時を飛びこえて少しねじれた世界に暮らす

ささやかにまたたく星が君の眼に見えないと知る夜のさびしさ

耳に砂、耳にかすかな潮の味 もうあの海へかえれないのに

テーマ詠~学校

上履きをきしませ走る午後五時の廊下を夏の助走路として

2018年5月(30号)

自由詠~完全なパフェ

将来の夢を問われていた頃の頬やわらかく木の実を砕く

敗戦をテロップで知る雨の日にこまかくちぎるグリーンサラダ

怒りにも満たぬ小さなふつふつを豆のスープにかきまぜている

いうまでもなく完全なパフェでしたあなたの声にふりむくまでは

産毛まで浮かれる夏の総身をしずめるために噛む固い菓子

テーマ詠~文房具

試し書きのペンが描いた曲線は生まれる前の言葉のようだ

2018年9月(31号)

自由詠~BOX

校庭が日々箱庭になってゆく 夕焼けばかり更新されて

家具といえばそれだけだった三月の窓辺に寄せるカラーボックス

シネコンの枝分かれした箱の中かすかな魔法にふれて、はじまり

ケンタッキーが倦怠期って聞こえたのボックスシーツをざわざわさせて

生きのびる言葉の鍵はどこにある 筆箱、下駄箱おしえておくれ

テーマ詠~英単語

おみくじはgeneral luckひっそりと群像劇のひとりに戻る

うたつかい2015・1月号(21号)~2015冬号(25号)

2015年1月号(21号)

自由詠~「水の香はしる」より

霜月の水道水をひんやりと口にふくめばとりもどす声

かけおりる坂の途中で感情があふれてしまう水の香はしる

身のうちに多くの水と熱を持つゆえにこぼれる涙ひとつぶ

何度でも約束をしてカレンダー指さき染めて彩りましょう

水をよぶ水によばれる百年前、百年後にわたしはいない

テーマ詠~毛

藍色の毛糸ひなたで編みながらあなたの冬の寒さをねがう

2015年春号(22号)

自由詠~F

背の高いあなたを思う誰よりも空の青さに近かったひと

三月の夜に返事をくれたことタイムラインの声は消えない

上書きに類語はなくて上書きをするしかなくて日々を重ねる

足早に曲がる街角追いかけて追いついたなら声をかけたい

背の高いあなたを思う誰よりも月のひかりに近かったひと

テーマ詠~春

春すでに夏をはらんで日は白く百の予感をとかして真昼

2015年夏号(23号)

自由詠~さびしい腕

三日月のかたちで笑ういもうとの目に水無月の気配はひそむ

眩しさは川のやさしさ気づかないふりをしている睫毛の翳り

思いきり水切りしたら疲れたねひかりを浴びたさびしい腕が

今日のこと今日聞いたこと何もかもいつか忘れるための共振

その明度、彩度もみんな好きだった未熟な夏のしたたる水の

テーマ詠~夜

話しても話したりない夜が明けて履く靴下のゴムのやさしさ

2015秋号(24号)

自由詠~針と風船

空高く赤血球のひとつぶのようにただよう秋の風船

せつなさが午後五時に来る水際のカフェであなたを明日へと渡す

ねむり方を忘れてしまう萩の花はじけるようにゆれる野に来て

失望をこころのひだに隠すとき容赦なくさすひかる針たち

はるばると見上げるほどに遠ざかる空刻々と星座くずして

テーマ詠~乗り物

雨のなか濡れない器のかたちして閉ざされている車のふたり

2015年冬号(25号)

自由詠~冬の息

親不知ひとつなくして帰りくる子は夕冷えの気配をさせて

声をかけたくてかけられないときの臆する舌は寂しい色だ

しゃべりつつ食べつつ動く唇がふいに閉じればやさしいかたち

金柑の種をしゅわりと吐きだせば果実になったようでうれしい

ひとくちの白湯をふくめば冬の息きみの名前をやわらかく呼ぶ

テーマ詠~匂い

折りたたみ傘ひとつぶんの雨の香をしずかに吸った きみのとなりで

2019年9月 7日 (土)

7月号の歌(2019)

あえて踏む枯葉ひと葉のはかなさの果たせなかった約束がある

ぼたん雪まよわず春のただなかを歩くあなたは肩を濡らして

寂しいとLINEに書けば寂しさは思いがけないほどに溢れる

大泣きの子が降りてのち路線バスの車内はどこか無機質になる

駅にいる人は待つ人それぞれの春のひかりを胸にたたえて

午後五時に春の小川は流れ出し私は駅のホームにならぶ

(塔2019年7月号掲載歌・山下泉さん選)

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5月号4首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(加藤久子さん)

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