2019年9月 9日 (月)

うたつかい2016夏号(26号)~2018.9(31号)

2016年夏号(26号)

自由詠~千の傘

ひとしきり降る雨がある人知れず芽吹く草木をはぐくむために

雨あがり電車の中に忘れられみじかい旅をする千の傘

盗まれることはあっても忘れるという生き方をしてこなかった

配下という言葉をニュースに聞いている小さな傘を分けてあげたい

ひんやりとつながる傘と右腕の描くきれいなラインみずつき

テーマ詠~家具家電

くやしさというバネひとつずつ足して寝心地のいいベッドをつくる

2016年秋号(27号)

自由詠~偽憂う背に(回文短歌)

遠のきてのち来る兄の名は記し花野に歩く地の笛の音

水底の石 枯れ木と火 野は目覚め羽のひときれか思惟の去年、波

是か否か行こうよまさに桜、空、草にさまよう恋叶い風

相聞の残る世 美の詩 偽憂う背にしのびよるこの「ノン」も嘘

快活のタウン散策恋ひと日 異国燦々歌の使いか

テーマ詠~オノマトペ

おるどびす、しるる、でぼんと流されて捕食されゆく小さないのち

2017年春号(28号)

自由詠~街の風景

スカイツリーのない東京を駈けてゆく七つの君とセーラームーン

てんてんと広場を跳ねるこどもたちフレンチナッツステッチになる

明日の天気を知れば行けない場所がある蛮勇なんて死語かもしれない

雨の街を見おろせば傘の色みちて寂しくないとおしえてくれる

ほんとうにいいんですかと夜が問う街のあかりの途切れたあたり

テーマ詠~お店

一礼ののちに売場を下がる人の折り目正しい気配はのこる

2017年秋号(29号)

自由詠~耳に砂

うぶごえのひびく窓辺のあかるさにみな余命持ち子は生まれくる

肩に眠るおさなごの夢の小さき庭だれも知らないまま消えてゆく

ノストラダムスの予言の時を飛びこえて少しねじれた世界に暮らす

ささやかにまたたく星が君の眼に見えないと知る夜のさびしさ

耳に砂、耳にかすかな潮の味 もうあの海へかえれないのに

テーマ詠~学校

上履きをきしませ走る午後五時の廊下を夏の助走路として

2018年5月(30号)

自由詠~完全なパフェ

将来の夢を問われていた頃の頬やわらかく木の実を砕く

敗戦をテロップで知る雨の日にこまかくちぎるグリーンサラダ

怒りにも満たぬ小さなふつふつを豆のスープにかきまぜている

いうまでもなく完全なパフェでしたあなたの声にふりむくまでは

産毛まで浮かれる夏の総身をしずめるために噛む固い菓子

テーマ詠~文房具

試し書きのペンが描いた曲線は生まれる前の言葉のようだ

2018年9月(31号)

自由詠~BOX

校庭が日々箱庭になってゆく 夕焼けばかり更新されて

家具といえばそれだけだった三月の窓辺に寄せるカラーボックス

シネコンの枝分かれした箱の中かすかな魔法にふれて、はじまり

ケンタッキーが倦怠期って聞こえたのボックスシーツをざわざわさせて

生きのびる言葉の鍵はどこにある 筆箱、下駄箱おしえておくれ

テーマ詠~英単語

おみくじはgeneral luckひっそりと群像劇のひとりに戻る

うたつかい2015・1月号(21号)~2015冬号(25号)

2015年1月号(21号)

自由詠~「水の香はしる」より

霜月の水道水をひんやりと口にふくめばとりもどす声

かけおりる坂の途中で感情があふれてしまう水の香はしる

身のうちに多くの水と熱を持つゆえにこぼれる涙ひとつぶ

何度でも約束をしてカレンダー指さき染めて彩りましょう

水をよぶ水によばれる百年前、百年後にわたしはいない

テーマ詠~毛

藍色の毛糸ひなたで編みながらあなたの冬の寒さをねがう

2015年春号(22号)

自由詠~F

背の高いあなたを思う誰よりも空の青さに近かったひと

三月の夜に返事をくれたことタイムラインの声は消えない

上書きに類語はなくて上書きをするしかなくて日々を重ねる

足早に曲がる街角追いかけて追いついたなら声をかけたい

背の高いあなたを思う誰よりも月のひかりに近かったひと

テーマ詠~春

春すでに夏をはらんで日は白く百の予感をとかして真昼

2015年夏号(23号)

自由詠~さびしい腕

三日月のかたちで笑ういもうとの目に水無月の気配はひそむ

眩しさは川のやさしさ気づかないふりをしている睫毛の翳り

思いきり水切りしたら疲れたねひかりを浴びたさびしい腕が

今日のこと今日聞いたこと何もかもいつか忘れるための共振

その明度、彩度もみんな好きだった未熟な夏のしたたる水の

テーマ詠~夜

話しても話したりない夜が明けて履く靴下のゴムのやさしさ

2015秋号(24号)

自由詠~針と風船

空高く赤血球のひとつぶのようにただよう秋の風船

せつなさが午後五時に来る水際のカフェであなたを明日へと渡す

ねむり方を忘れてしまう萩の花はじけるようにゆれる野に来て

失望をこころのひだに隠すとき容赦なくさすひかる針たち

はるばると見上げるほどに遠ざかる空刻々と星座くずして

テーマ詠~乗り物

雨のなか濡れない器のかたちして閉ざされている車のふたり

2015年冬号(25号)

自由詠~冬の息

親不知ひとつなくして帰りくる子は夕冷えの気配をさせて

声をかけたくてかけられないときの臆する舌は寂しい色だ

しゃべりつつ食べつつ動く唇がふいに閉じればやさしいかたち

金柑の種をしゅわりと吐きだせば果実になったようでうれしい

ひとくちの白湯をふくめば冬の息きみの名前をやわらかく呼ぶ

テーマ詠~匂い

折りたたみ傘ひとつぶんの雨の香をしずかに吸った きみのとなりで

2019年9月 7日 (土)

7月号の歌(2019)

あえて踏む枯葉ひと葉のはかなさの果たせなかった約束がある

ぼたん雪まよわず春のただなかを歩くあなたは肩を濡らして

寂しいとLINEに書けば寂しさは思いがけないほどに溢れる

大泣きの子が降りてのち路線バスの車内はどこか無機質になる

駅にいる人は待つ人それぞれの春のひかりを胸にたたえて

午後五時に春の小川は流れ出し私は駅のホームにならぶ

(塔2019年7月号掲載歌・山下泉さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

5月号4首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(加藤久子さん)

NHK俳句9月号

クーラーの余韻ひるさがりの無言

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・゜

兼題「クーラー(冷房)」で長嶋有さんに佳作に選んでいただきました。

2019年7月27日 (土)

6月号の歌(2019)

榊の枝まわして捧ぐ昨日までこの世にあって今日はない人

ひとひとりなくした街に海はあり凍てつく今日の風が吹きくる

三十年太極拳を教えきた腕の長くのびやかなこと

幼子の声と祭詞をおりまぜて御霊遷しの夜は深まる

ひこばえの「ひこ」は孫なりやわらかき新芽のごとき三つのいのち

ほほえみは光にも似て横顔をみじかく照らす その寂しさを

三月にまた行くだろう花色を増して明るむ神戸の街へ

(腕=かいな)

(塔2019年6月号掲載歌・新樹集~吉川宏志さん選/山下洋さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

NHK俳句8月号

蠍座を天に放ちて夏祓

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・゜

兼題「名越の祓」で井上弘美さんに特選二席に選んでいただきました。(6月16日放映)

選者コメント
「蠍座」は夏の星座で、心臓にあたる赤い星は豊年星とも呼ばれています。
「夏祓」という人の世の習わしに「蠍座」を描くことで、命の不思議さを思わせる視点が生まれ、印象鮮明な句になりました。

2019年7月 5日 (金)

5月号の歌

始発に乗って君帰る朝分針の流れに沿って私は動く

東京の地下の深みにトンネルの数だけ沈むシールドマシン

指揮棒に断たれた音はまた生まれヴィオラ奏者のすべてを揺らす

古めかしい映画のように聞こえくる国際ロマンス詐欺という罪

ぎゅっと涙をこらえるときに痛くなる喉は言葉を殺しているか

夏の便りに添えられていた風草は押葉となっててのひらにある

(塔2019年5月号掲載歌・真中朋久さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

5首目の歌を百葉集に選んでいただきました。
3月号2首目の歌を選歌欄評で取り上げていただきました。(有櫛由之さん)

NHK俳句7月号

マーガレット泣いているのは誰だろう

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・゜

兼題「マーガレット」で長嶋有さんに佳作に選んでいただきました。
俳句は普段は旧仮名ですが、この句は新仮名の方がよいと思ったので新仮名です。

2019年6月 5日 (水)

4月号の歌

零度未満の白やむらさきひろがって年あらたまる頃のしずけさ

月見れば千々に悲しむ心など持たず私は月が好きです

窓縁にぐんと身体を乗りだして月の写真を一枚撮った

私の好きな味だけ残されてほのかに香るキャンディ袋

ひらがなにひらくことばのやわらかさあなたの話すあしたはきっと

(塔2019年4月号掲載歌・なみの亜子さん選)

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

月刊うたらば5月号「飲」

夕焼けを飲みこむような苦しさもあるためらわず恋に生きれば

☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・

月刊うたらばテーマ「飲」に採用していただきました。

フリーペーパー最新号うたらばvol.24「約束」佳作集にも1首掲載されています。
         ↓
http://www.utalover.com/index.html

«3月号の歌(2019)